【作品番号:009】大きめショルダーバッグのできるまで
ある日の朝。ラインに、一つメッセージが届いた。
「私も、麻ヒモバッグほしい~。」
それは、25年前に突然出会った、アメリカに住む友達だった。
かれこれ、私がアメリカ留学時代に、隣町に住む日本人と、偶然出会い、意気投合して過ごして青春時代。そして何年も連絡が途絶えていたのに、Facebookでまたお互いの存在を確認して、早2年。
本当に出逢いって、不思議なことが起きる。
この友人まみ(仮名)は、なぜ私の作る麻ヒモバッグを、海を越えて購入したいと言ってくるのか、不思議だった。
私のFacebookに、できたての「麻ヒモバッグ」を載せて、何人の人が反応してくれるのか、ちょっと知りたかった。
だから、まみもアメリカから私の投稿に、反応してくれたのだろう。でも、アメリカへ小包を送れるのか、不安だった。今コロナ禍の中、外国へ送るもの受け取るものは、すべて規制がかかっているからだ。
突然のオーダーにオーダーメイド
とにかく、私は、まみがどんな感じが好みで、どんなイメージのバッグが欲しいのか、聞き出すことにした。
アメリカへ送れるかは、分からないが、作品を作ることはできる。
まみは、「おまかせする。色合いを決めるとき、また連絡してね」
そう言って作品工程を楽しみにしている様子だった。
私は、まみのイメージを(25年前の姿を)思い出して、少し大きめのバッグを作ろうと思った。かなり昔の彼女のイメージなのに、今と変わらない様子を思い、彼女に合う色は、「赤」かなと勝手な想像をふくらませていった。
丸底より楕円形
楕円の形に編んでいった。
途中、リボンを入れられるように、長編みを一段入れて、細編みをしていった。
細編みをしている中で、まみとのアメリカでの思い出が、どんどんとよみがえっていった。
アメリカ留学中、お互い日本食を食べたい思いにかられ、スーパーでジャガイモとマヨネーズを買い、大量のポテトサラダを作ったこと。アメリカのマヨネーズは、キューピーとはほど多く、塩気もなく油だけの味だったので、塩コショウを大量に混ぜて、「おふくろの味・ポテトサラダ」を完成したこと。
まみとは、日本の思い出ばかりを語り合う仲でもなく、将来のことも熱く語り合った。将来のこと、仕事のこと、日本に帰国すべきか、残るべきか。留学生ゆえにある、悩みをお互い吐き出しあった。それでも、お互いが進むべき道は、本当に想像をはるかに超えたものだった。
バッグ部分が完成
そんなことを考えて、まみのためのバッグ部分が完成した。
まみに、ラインを入れてみた。
「何色がいい?」
「グリーン系が好きよ」と、まみ。
それだったら、こんな色と思って、コサージュを作ってみた。
取っ手部分をつけて、あれこれ考えた。
(リボンにする色は、こげ茶がいいな。)
緑に合う色は、落ち着き感があった方がいいと思ったからだ。中身の布も、ブルーグリーン系でおさめてみようと、直感で思った。
この日の夜は、マッシュポテトを作った。
牛乳が少なかったせいか、なめらかとろーりとはいかず、アメリカで作ったまみとのポテトサラダに似ていた。
塩気もなく、なんだかぼそぼそしたけれど、ドイツ人のダンナさんがソーセージとザワークラウトと一緒に、無言で食べてくれた。
子どもたちは、なんの疑問もなく、喜んで食べてくれた。本場の味を知らないって、ある意味幸せなんだろう。
内側の布もつける
まみをイメージして作ったバッグ。完成した。
上品な色合いで大人テイストになって、よかった。まみのリクエストで、肩からかけて持ちたいと言っていたので、持ち手をながめに編んだ。
なかなか良いサイズになった。これなら、冬場もコートを着た上からバッグも持てるはず。
値段
いざ値段をつけるとなると、難しかった。製作日程は1週間かかり、材料費も結構要った。
始めは5,500円と、材料費とちょっとの製作料と思って、言ったけれど、まみはその気持ちを理解していた。
「きちんとお支払するから、ちゃんとした金額言って。」
「本当は、正直言って1万円は頂きたいの。」
「OK. 11000円と、送料と、お願いしていた物も買ってほしいから、合わせて13000円払うから。」
私は、正直、胸が躍るような気分になり、飛び上がって喜んだ。
作品を11000円で購入していただける。その思いがただただ嬉しかった。
そう。アーチストって、自分の作品に自信がないと、値段が付けられない…。評価が怖いから。人間が怖いから。
自分の直感で作ったバッグを、まみに評価してもらうことが、怖かった。
だから、まみが私を絶対的に信頼し、この値段を支払ってくれることに、バッグ作家としてやっていく一つの自信につながっていった。
小包を送る
コロナにより、アメリカへの小包は、船便でしか送れないと分かった。
航空便は、すべてダメだということ。船便は、3か月くらいかかる。
麻ヒモがカビちゃうか、心配になった。海の上をゆらゆら3か月だよ。そりゃ、湿気や、何か臭いのも吸い取ってしまうに違いない。
私は、地元の郵便局に掛け合った。
たまたま、局長が対応をしてくださった。
「なるべく早く届けたいので、何か方法はないですか?小さくまとめるので、普通郵便扱いにしてもらえませんか?」
局長、計りにおいて重量をみて、サイズもみて、ギリギリセーフで普通郵便扱いになると言ってくれた。
しかし、担当者の女性が後から来て、きっとだめだろう、と。
局長、税関などに電話をかけてくれた。
5分後。「大丈夫。国際書留という扱いで、なんとか送れますよ。」
もう。本当に、ありがとうございます。
気づけば、郵便局員3名の方々が局長と共に、調べてくださっていました。
船便だと、国際書留より1000円ほど安かったのですが、早くまみの元に届けたかったから、料金高かったけど、送ることができました。
それでも、2週間くらいはかかると言われました。
コロナ禍で、世界も混乱しているのだろうな。この小包一つで、何人の方々がそれに関わり、まみの手元に届くのだろう。そのことを考えると、送料もあながち高くなく感じるのであった。
送金
まみは、始め国際手形で支払うと言ってくれた。しかし、アメリカの郵便局で、国際手形は、発行できないとのこと。恐るべし、コロナ。
銀行送金になると、ものすごい手数料がかかってしまう。まみも、試行錯誤、どうやって送金できるか考えてくれた。
すると
「Paypalなら、支払いできそうよ。」と。
おおー。Paypalね。私にとっては、未知の世界だった。
だからこそ、チャンス。一から学ぼうと、Paypalのホームページで理解を深めた。
すると、ビジネスPaypalがあるじゃん。
そう。まみだけでなく、Paypalでクレジット払いもできるので、日本全国で私のバッグを購入したい人が、このビジネスPaypalを利用して支払いをしてくれる。
さっそく登録し会員になった。
そこから、まみへPaypal請求書を送る事ができた。
まみは、すぐ支払いをしてくれた。
ありがたかった。
はじめてづくしだったけれど、結果その後へ大きなステップになる
結果、学ぶところがたくさんあった。
送料も、送金も、小さく荷物をまとめるのも、自分がビジネスをしているんだという責務のもと、色々な状況にも対応できたということ。
単なる友達へ荷物を送るという作業だけではない。
ありがとうの気持ちがいっぱい詰まったバッグになった。
思い出だけじゃなく、今と、これからを生きる大きな学びの時となったのだ。
麻ヒモで、細編みをする作業は、本当に色々なことを思わされる。
しかし、ここで学ぶことは、大きなビジネスマンとして生きていく私への、大きな教えが詰まっている。
さあ、次の作品へ取りかかろう。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。