【その3】ストップって何だ?
今回は、オルガンにはかかせない『ストップ』についてです。
前回の記事を見逃してしまった方は、こちらからどうぞ。
『ストップ』と、いきなり聞くと、「何をストップ(Stop)するの?」と、オルガンを目の前に、思ってしまうかもしれません。
ストップは、オルガンの音色や音質を選択できる、スイッチなのです。
だから、ストップと言えど、スタートの役目なのですよ。ここがややこしい!
ちなみに、言語によって表現が違います。
- 日本語は、ストップ(英語をそのままコピー語)
- 英語は、ストップ
- ドイツ語、レギスター
- フランス語、ジュー
なんて言い方が変わるのです。
ストップの始まり
15世紀ごろ、オルガンビルダーたちは、大聖堂などの建物のコンセプトに合った音を引き出すために、創意工夫をこらします。
倍音(一つの音から、2つめ3つめ等違う音が同時にでる音)に並列されているパイプ郡から、基本の音とその8度上の音を出すパイプを、スライド板を用いて分離し、伴奏や独奏に使えるようにしました。
パイプオルガン~歴史とメカニズム~秋元道雄著 から抜粋
当時のストップをざっくり分けると、
- プリンシパル(オルガンの最も重要な基本の音)
- オクターヴ(基本の音より8度上)
- ミクスチュア(ミックスした音)
以上でした。
現代のような、8フィートとか16フィートとかは、なかった時代だったので、パイプの数や倍音も一定していなかったのです。
だから、これだけのストップで、オルガンの中は、いっぱいいっぱいだったのです。
16世紀になると、新しいストップがどんどん出るようになります。
基音から、
8度、15度、22度の音。
12度、19度の倍音など、ミクスチュアをいれると、大音量のパイプが同時に鳴るようになりました。
そして、私が個人的に大好きな音、フルートの音色をつけたストップも登場します。
フルート管以外にも、弦の音色、低音を出す大きなパイプも開発されていきました。
夫が製作したオルガンのフルート管
私の夫が製作する「フルート」ストップを聴いちゃうと、もう音が暖かくて、神様に(?ダンナさんからでなく?)抱きしめられている感が、半端ないです。
下記は、サンプルCDです。色々なストップが入っています。
5:20あたりから、フルート管のやさしい音が聴けます。
上記の表は、オルガン仕様といって、この3段鍵盤のあるオルガンに、ストップ一つ一つを記載し、オルガンの大きさが大体分かるようになっています。
16’、8’、とかは、16フィート、8フィートと解読します。
「このストップを使ったら、あの曲が弾ける」とか、オルガン奏者は、この表を見て、夢を広げていくのです。
ストップのいろいろ
ストップの数が分かると、だいたいそのオルガンの大きさが分かります。
ストップ数、4本だと、小さなオルガン。
15本~20本くらいが、中型オルガン。
それ以上は、大きなオルガンになっていきます。
ストップの組み合わせによって、音の変化と音量の変化も楽しめます。
色々な形のストップがあります。上記の写真は、その種類の多さを表していますね。
ノブ型コンソール
このノブ型と呼ばれるストップを、引っ張ると音が鳴り、押し込むと鳴らなくなるようになっています。
昔からよく使われたそうですが、かなり使いづらいですね。
譜めくりや、ストップを引っ張る助手さんをつけないと、バロック以降の曲などは弾けないです。
現代は、電気アクションで、ボタン一つで色々な種類のストップをコンピュータに入力して、簡単に引き出せるようになっています。
しかし、忍耐強い(?)私のダンナさんは、この電気アクションとの相性悪く、いつもやられっぱなし感がありますので、電気アクションなんかインストールするより、昔から使われているノブ型でやってくれ、と心の中で叫んでいます(爆)
フィート
さっきから、フィートばかり連呼していましたが、フィートとは長さの単位を言います。
8フィート=2.4384メートル
オルガンの鍵盤の際低音のC(ド)のパイプの長さが、8フィートあるパイプ列を持つストップは、ピアノと同じように楽譜上の音と同じ高さになります。
他の種類のパイプを持つストップでも、音の高さが同じであれば、8フィートとして扱われます。
ドイツ語が少し入ってしまいましたが、絵を見てください。
8フィートがどのくらいの長さか、分かりますね。
オルガンの代表的な音を選ぶときに、8フィートと16フィートのフルー管のストップたちを選びます。
これらは、特に英語だと、「ファウンデーションストップ」直訳「基本のストップ」、ドイツ語だと「グルントシュティメン」直訳「基本の声」、と言われるのです。
それほど、8フィートは、大事なのです。
だから、初めてオルガンにすわったときに、ストップを引き出すのは、まずは、8フィートと16フィートのフルー管の音を聴いてみてください。そのオルガンから聴こえる魂みたいな音が発音されると思うから。
プリンシパル系のストップ
オルガンのオリジナルの音色が、プリンシパル系です。
とってもパワフルで、深みのある力強い音が鳴ります。
また製作者の国によってオルガンの表記が違うので、様々な国のオルガンがある場所、例えば東京近郊でオルガンを弾く時は、これらストップ名を参考にしてみてください。
- ドイツ語、プリンシパル(Prinzipal)
- 英語、オープンディアパソン(Open Diapason)
- フランス語、モントル(Montor)
呼び名も違いますが、音も変わってきます。もちろん、自国のオルガンが一番と思って製作しますから、その国の歴史や音楽家の意思もしっかり引き継いだ音が鳴ります。
例えば、
イギリスのプリンシパルは、大きなオルガンの4フィートに付けられます。
ドイツのプリンシパルは、各鍵盤の一番低い所の、大きなオルガンに付けられるそうで、プリンシパルのフィートは一定していないそうです。
オルガンを一目でみて、オルガンの全面にキレイに装飾されてあるものは、4フィートのプリンシパルが多く使用されています。
参考までに、夫がドイツで製作したオルガンはこんな感じでした。
先ほどのCDが収録された教会
オルガンのデザインと、オルガンの音の鳴り方と、教会への反響、教会へ来る人の人数、湿気湿度と、すべてを計算された芸術作品となります。
まとめ
ストップは、まだまだ奥深く、ここでは書ききれないものがたくさんあります。
次回もストップの記事を書いていこうと考えています。
国によって、そのスタイルや呼び名は違いますが、一つに「オルガン」と呼ばれる大きな楽器は、その歴史が歩んだ深さと、現代に生きる製作者と音楽家によって、進化していると思います。
人間が住む住居も、住みやすくオシャレなデザインの間取りが人気であるように、オルガンも弾きやすくオシャレで、心に響く音を求められてきました。
まだまだ庶民には、程遠い存在ですが、その魅力は計り知れず、庶民だから歴史のどん底を歩いてきた私たちにとっての「希望」や「暗やみの中の光」のようにも思えます。
だからこそ、今の時代に必要なオルガン。
たくさんの人にその魅力を知っていただきたく、今日も走り続けます。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次回もお楽しみに。